雨宿り


 突然のどしゃぶりの雨、傘を持っていない僕は急いでコンビニの中に駆け込んだ。その中には僕と同じようにずぶ濡れの女子高生らしき子がいた。胸についている校章から同じ学校の生徒と言う事がわかった。
 ただ、見たことのない生徒だった。
 かわいいけど、背が低いから朝会の時はあまり目立たなかったのだろう。
 僕は声をかけようと思ったが止めた。
 初めて会った人にいきなり声をかけるようなナンパな人に思われたくなかった。
 僕は彼女の隣に立ち、少年マンガ誌を読み始めた。彼女の方は情報誌を読んでいた。
 僕と彼女は一言も喋らずそのまま立っていた。しかし、僕の心の中はいらだちを全く覚えず、何とも言えない幸せな気持ちになった。
 すると、彼女は情報誌をその細い指で閉じて、情報誌を下に置いた。
 もう、雨はどしゃぶりから小雨になっていている。
 僕は彼女が行ってしまうのだと思った。
――言わなくちゃ、引き止めなくちゃ。
 しかし、そんな事をしていいのか?
 それは疑問だった。
 僕がどうしていいかわからず指をくわえて彼女を見ていた。
 そんな、僕の思いに関係なく彼女は外を見て、呟いた。
「まだ、降っている……」
 小さいが僕にははっきりと聞こえた。
 僕に彼女に対して、敏感になっていた。
 正直言って良い声だ。僕の中の心が清流で洗われていくような気分になる。
――あと、もう少しだけ彼女といられる。
 そう思うと心がはずんだ
 そんな僕に彼女が「ねえ」と声をかけてくれた。その声を聞くと僕の心がさらにはずんだ。今にも躍り出しそうだ。
「はい!」
 僕は思わず声を上げてしまった。
 と、彼女はその行動をおかしく思ったのか、首を傾げた。
 僕は少し、マズイと思った。
 それにかまわず彼女は話しを続けた。
「君、同じ学校の生徒だよね」
「……そうだけど……それがどうしたの?」
「ううん、なんでもない」
 僕はかすかに彼女が微笑んだ気がした。
 僕はその感覚に喜びを感じた。
「あのさ、好きな人っている?」
 と僕は軽い気持ちで尋ねた。すると彼女の顔に影がさした。
 僕はまずいことを聞いた気がした。
「ごめん。聞いちゃいけないことだったね」
 僕は雑誌をおろし、自分の顔の前で手を合わせた。すると彼女は優しい目になった。
「いいの。せっかくだから、そのことを君に話して上げる。私、話上手じゃないけど、聞いてくれる?」
 彼女の意外な言葉に僕は頷くしかなかった。 「もちろん。喜んで聞くよ」  多少の恋愛話に抵抗はあるがそんなことはどうでもいい。彼女と長くいられるのだ。それだけで僕は満足だった。
「ありがとう」
 そんな僕に彼女は天使のような笑みを浮かべてくれた。

 彼と私が会ったのは晴れた夜だった。
 中学生だった私は受験も終わり、その打ち上げの帰りに小さな公園に行ったの。
 するとそこにはブランコにゆられている青年がいたわ、彼はそこでぼ〜〜っと空を見上げていたの。
 私もつられて空を見上げたわ。そこには一つの雲がぷかぷかと浮かんでいたの。
 私はそれを見ていたと思ったの。女の直感ってヤツね。私は彼に近づいて尋ねたの。何を見ていたのかってね。
 すると彼は私を見てニコッと子供のように笑ったの。それから、語りかけるように優しい口調で言ったの。
「夜の闇を見ていたんだ」
「夜の闇?」
「そう、どれくらい明るいか」
 と彼は自慢気に言ったの。もちろん、私は意味がわからなくて彼に尋ねたわ。
「どういうこと?」
 すると彼は突然変な事を言ったの。
「人間は夜の闇を消してきた。なぜだかわかるかい?」
 私はその質問には答えられなかった。
 そんな私を見て知らなくて当然と言うようなため息を彼はついた。
 私はちょっとそれが嫌だった。
「まあ、そう怒らないで」
 彼は苦笑いをしてうかべて言うと、大魔人のように表情を変えた。
「夜の闇は昔の人にとっては恐怖だった」
「どういうこと?」
 私はその話にふと興味を持った。自分の身の回りの話よりもおもしろいかもしれないからだ。
「昔の人々は明かりと呼べる物がそんなになかったんだ。だから、夜になるとほとんどの周りが見えなかった。ほら、君だって視界が真っ暗になると不安だろ?」
「そりゃね」
 私は苦笑いを思わず浮かべた。スイカ割りの不安さを思い出したのだ。
「小さい子供は夜になると外に行くのが恐いから出ないのだろ?」
「そういえばそうね」
 私も小さいころ真夜中に夜に出るのは恐かったのだ。
「つまりね。夜の闇は人間を不安にさせる。それが発展して恐怖にかわるんだ。人間はそういうものを潜在的に残っているんだ」
 そこまで聞くと私は彼が何をしているのか気付いた。彼は闇と語り合っているのだ。恥ずかしい思い出や嫌なことなどそんなことなどだ。
「指にささった針はぬかないとそこから腐るかもしれないからね」
 彼はそう言うとまた空を見上げた。
 私は彼の横顔を見た。
 私は正直彼がすごいと思った。そして、うらやましかった。
 それからだ。彼が夢に出てくるようになったのも……

 彼女は話を終えるとため息をついた。
 それから、彼女は外を見た。雨はすでに上がっていた。
 僕はその話に出て来た男を知っているような気がした。もし、勘が当たっているとしたら……
「まさか、そいつ、黒山って名前じゃない?」
「ええ、後でわかったことだけど……どうして知っているの?」
 彼女はキョトンとした顔になった。
 僕の中ではそんなくさいことはっきりと言えるヤツは一人しかいなかった。
「ええ、彼は同じ学校の人って、知っているんだけど話しかけられなくて……」
 彼女は悲しそうにうつむいた。
 僕にはそれが痛々しく見えた。
「まかせてよ。そいつならよく知っているよ。多分喜んでくるぜ」
 僕は胸をバンと叩いて言った。
 僕の中の悪魔君が言った。
――何言ってんだよ。こんなかわいい子を他のオトコにやってよ。
――それで良いのよ、彼女は本当に愛している人と一緒にいることが幸せなのよ。
 悪魔君を止めに天使さんがやって来た。
 天使さんが来ても負けじと悪魔君は言った。
――何?言ってんだ?これでいいのか?
――いいのよ。もう決まった事なの!
――悔いはないのかよ。
――ないのよ!
 僕はその天使さんの言葉に賛成だった。
 と、彼女はうれしそうに笑って、「ありがとう」と言って、出口に向かって走り出した。
 その様子をぼやけた視界で見ていた。

「俺に会いたい子がいる?」
 僕は今、教室にいる。目の前には日に焼けた黒い肌の青年がいる。僕は彼をクロと呼んでいる。
 クロは弁当の箸をくわえながら驚きの声を出した。
 僕はその声にうんと大きく頷いた。
 すると、クロは僕の顔を見て、額に皺を寄せ、じぃ〜〜と僕を見た。
 それから、いきなりデコピンを打った。
「いて」
「無理するのはよせ」
「え?」
 クロは僕の驚きの声を無視して外を見た。
 そのまま、鼻で笑って言った。
「その子に言っておけ、俺は恋よりも友情を取ると……」
 クロとまたわけのわからない言葉だった。
「どういうこと?」
「それは………自分で考えろ」
「はっ!?」
 クロのテキトーな言葉に僕はキレてしまった。そんな、僕にクロはため息をもらした
「一つ言おう」
 クロは急に目付きをかえた。その迫力に僕は少し驚いてしまう。
 いい人ではなく、人を何事もないように平然と殺しそうな目だった。
「お前は自分にウソをついている。俺は自分にウソをついている奴の言葉に従いたくない。それだけだ」
 その言葉が僕の胸に突き刺さった。
 胸が急に痛み出した。
 僕は彼女のためにやったことだ。それが間違っているのか。僕にはわからない。
 彼女のためなら何でもできる。どんなこともたえらえる。
 だから、胸のイタミを感じても、僕はクロを紹介しようと思ったのだ。
「どういうことだ?」
「要は、お前みたいな奴にそんなことされてもうれしくないってことだ」
 そう言うとクロは立ち上がった。
「でも、お前に紹介するって言ったしなぁ」
 と僕が言うとクロはすっかりあきれたような顔になりぶっきらぼうに言った。
「わかったよ。会ってやるよ」
 それだけ言うと教室の出口に向って歩き出した。おそらく、トイレに行くのだろう。
 僕はじっとその様子を見ていた。

 その日も、急に雨が降ってきたので僕は彼女と会ったコンビニで雨宿りした。
 制服もこの前と同じようにズブぬれだった。
 僕はため息をもらすと昨日残念ながら出ていなかった少年誌を読もうと雑誌棚の下の段にある少年誌に手を伸ばした。
 その時、コンビニの店員の大きな「いらっしゃいませ」と言う声がした。
 僕は雑誌を取りながら、自動ドアに立っている入って来た客を見た。
 その客は見覚えのある長い髪型で、頭からバケツをかぶったようにポタポタと黒い滝から水を垂らしているようだった。
 服を見ると僕と同じ学校の女子生徒だ。
 彼女は顔を上げた。その時、彼女の顔が僕に見えた。
 その顔を見て、僕は雷にうたれたようなショックを受け、思わず手に持つ雑誌を下に御落としてしまった。
 そう、まさしく彼女だったのだ。
 彼女はゆっくりと髪から雫をたらしながら僕に向って歩いていた。まるで、髪が泣いているように見えた。
 僕にはそんな彼女が怨霊のように見えた。
 狐に取り憑かれたかと僕は思った。
 すると、彼女は僕の前で立ち止まり、いきなり手を振り上げて、僕の頬を手の平でたたいた。僕の頬が熱くなった。
 僕はいったい何事かと思いながら、首を横に向けながら彼女を見た。
 そこで彼女は小さい声で言った。
「バカ」
 僕は首を元に戻しながら、彼女の顔をよく観察した。
 彼女の顔は涙で悲惨なものになっていた。
「責任を取りなさいよ!」
「えっ!?」
 彼女の口から出た意外な言葉に驚いた。 「あなたのせいで付き合えなかったじゃない!どうしてくれるのよ!」
「うぇっ!?ちょっと待ってくれ、クロが君をふったてこと?」
「そうよ!」
 彼女はそうとう怒っていた。どうして、そんなに怒っているのか僕には理解できなかった。けど、怒った顔もけっこうかわいいなんて非常識なこと思うのは僕だけだろうか?
「彼がね、俺よりも君のことを好きになってくれる人がいるって言っていたの。で、それがあなたって彼は言った……」
 そう言うと彼女は僕の胸の中に飛びこみ、僕の胸板に頭を押し当てて、大きな声で子供のように泣きじゃくった。
 僕はそれに恥ずかしさを覚えた。
 その時、ふと何故かクロの言葉が心の中から浮かび上がって来た。
『お前は自分にウソをついている』
 僕はその言葉を今、理解した。どうして、そんなことがクロにわかって僕にはわからなかったのが不思議だ。
 僕は確かに彼女の手助けがしたかった。でも、本当はそれだけじゃなかった。僕は根本的なことに気付かなかった。灯台、下暗しとはこのことだろう。
 僕は彼女の事が好きだったのだ。恋していたのだ。愛していたのだ。
 僕はその気持ちに気付くと宝物を見つけたようにうれしくなった。それと同時に、胸の中にあった何かが燃えだし、胸の中を熱くしていった。
「やっぱ、バカだな」
 僕がそう言うと彼女は鼻をすすりながら僕の顔を見た。
 僕も彼女を見る。
 僕はウサギみたいに赤い目の彼女の顔を見ながら言った。
「僕は君のことが好きだ。誰にもわたしたくない」
 そう言うと目のまわりを赤くした彼女は僕の涙で濡れた胸に顔をうずめた。それを僕は強く抱きしめることで答えた。
 窓の外の景色は明るくなりはっきりと虹が確認できるようなっていた。
 まるで、二人が夕立を止め、虹を作り出したようだった。

 そのコンビニにやって来た詩人、曰く、

    雨止んで
       雲がひらいて 地固まる
         二人の虹も 空にかかる

「ああ、俺も身を固めたいなあ」
 詩人はそう言うと頭をぽりぽりとかき、口元に笑みを浮かべた。
「まっ、この性格じゃあ、無理だな」
 詩人はおにぎりと炭酸飲料を手に持つとレジに向って歩き出した。
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